多余的話

大沢武彦のブログです。

黒岩比佐子『パンとペンー社会主義者・堺利彦「売文社」の戦い』読了

 本書は、社会主義者堺利彦の評伝である。幸徳秋水らが処刑された大逆事件後の弾圧の時代、堺利彦は「売文社」を立ち上げる。手紙や借金の依頼の代筆・外国語翻訳まで、あらゆる売文業を請け負い、窮地の同志達に仕事と居場所を与えた。そして、そこに集った大杉栄荒畑寒村・高畠素之等々の無政府主義者社会主義者達が生き生きと描かれている。
 しかも、あとがきによれば、著者はこの本の5分の4を書いたときに、膵臓ガンにかかり、まさに死に直面しつつ、この本を書いたという。それでありながら、著者は、どんな苦しいときでも、堺利彦のようにいつもユーモアを忘れず、楽天囚人ならぬ「楽天患者」としてきっと乗り越えていけるだろう、とこれまた感動的なメッセージ。
 まさにKindleで読み始めたら止まらない面白さで、600頁超える大作とのことであるが、一遍に読み終えた。個人的にちょっと綺麗に書きすぎじゃないかと思いつつも、とても感動的であった。これは間違いない。大変に素晴らしい本であった。
 そして、今時、こういうテーマを扱って、単純に興味深くて、面白い本が書けるとは、変な言い方かもしれないが、大変に勇気をもらった本である。大変にお勧めです。


 パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い (講談社文庫)