多余的話

大沢武彦のブログです。

菊池一隆『日本軍ゲリラ台湾高砂族義勇隊』平凡社新書、読了

 少し前に出版された吉田裕『日本軍兵士』(中公新書)は、主に第二次世界大戦下の日本軍兵士たちの実態を生々しく描き出し、大きな反響を得た。自分も同書から多くの知らなかった事実を学び、大変に勉強になった。

  しかし、第二次世界大戦下の日本軍兵士の実態は、同書だけではカバーしきれないものもある。そんなことを改めて教えてくれたのが、今回、紹介する菊池一隆『日本軍ゲリラ台湾高砂族義勇隊』である。
 本書は台湾原住民高砂族が、日本軍の一員として米豪連合軍との戦いにいかに巻き込まれ、戦ったかについて、明らかにするものである。同書の大きな特徴としては、日本側の資料だけでなく、当事者である原住民へのインタビューをふんだんに使っている点にあるだろう。これによって、日本側からはなかなか見えない原住民たちの生き生きとした、そして、簡単には図式化されていない声を伝えている。
 同書から明らかになるのは、台湾原住民は、主に「日本国家への忠」を証明できること、自身の待遇改善、および差別解消という三つの相互に関連する目的から高砂義勇隊、陸海軍特別志願兵の募集に応じている姿である。彼らは、当初は軍夫として扱われ、次第に実際の兵士へと動員されていき、東南アジアで凄絶な戦いを繰り広げた。そして、日本の敗戦後も彼らの戦いは終わらず、国民政府の支配や国共内戦朝鮮戦争文化大革命、さらに、現代の日本政府にまで翻弄される姿を描いているのは大変に興味深い。
 本書は、第二次世界大戦の日本軍の実態を、多角的に明らかにする書であり、多くの人に読まれるべきものになっていると思う。

 

新書886日本軍ゲリラ 台湾高砂義勇隊 (平凡社新書)

新書886日本軍ゲリラ 台湾高砂義勇隊 (平凡社新書)