多余的話

大沢武彦のブログです。

岡本隆司『近代日本の中国観』講談社選書メチエ、読了

実はも何もなく、私は大学で中国近現代史、この本で取り上げられる所謂「東洋史」を学び、まぁ、いろいろあって今に至るのであるが、この本を読みつつ、いろいろな先生の顔が、この本で描かれる見取り図の中のどこにどのように位置付くのか、あれこれと考えさせられた。その意味でまずこの本は大変に面白く読んだ。

 

本書は、近代日本人の中国観、とりわけ「東洋史」学の系譜を、現在、日本きっての「中国通」と、そう呼称しても良い著者によってまとめられたものと言える。

 

前半の白眉は、石橋湛山と矢野仁一との対比であろう。図式化すれば、前者の中国認識が「浅い」が故にリベラリスト、そして「小日本主義」を唱えることができ、戦後に高く評価されるが、後者はその認識が「深い」が故に「満洲国」と侵略にコミットするという。この指摘は重い。重すぎる。そんなことを言われると、著者の本意ではないと思うが、もう「中国認識」なんか辞めた方がいいのではとさえ、浅学非才の僕は思ってしまう。


しかし、著者は、それでもなお、本書で「中国とその社会、そのしくみと動きを、借り物の思想・概念で断ずるのでなく、自分の目でじっくり、しっかりみつめていくこと」を訴える。

 

その中で手がかりとなっていくのは、とりわけ、おそらく、後半で描かれる谷川道雄の営みなのであろう。この谷川道雄に対する著者の優しい眼差しと共感はどうだろうか。実は不勉強で20年以上も前に少しだけ囓っただけの「谷川共同体」。読み返したくなってきた。