多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、益尾知佐子『中国の行動原理』中公新書、2019年

日本を含めた世界各国と軋轢を起こす一党独裁の国、中国。

その背後には、何があるのか、それを中華思想や世界制覇の野心があると安易に論ずるのではなく、できるかぎり内在的にその論理を解明しようとする。こうした姿勢は大変に共感を覚えるし、はっとするような興味深い洞察を多くもたらしていると評価できる。興味深い中国論になっていると思われる。

 

冒頭の現代中国人の世界観や中華人民共和国以降の外交政策を論じた部分は、興味深く読んだ。そして、本書の白眉となるのが、いささか個別的ではあるが、広西チワン族自治区を取り上げる第5章と、国家海洋局をとり挙げた第6章になる。この事例は、中国は確かに一党独裁国家であるかもしれないが、それは決して一枚岩であることを意味するのではなく、いろいろなパワープレーヤーのぶつかり合いで一見矛盾するような政策が表れていることを明らかにしており、大変に興味深いものとなっている。

 

とは言え、いささか、歴史の部分で細かいことも気になったことは事実だ。

例えば、清王朝の後にできた中華民国は機能不全に陥った(40頁)と、僕からすると、その時の経験があっさりと切り捨てられているように見えたのは、違和感をもった。また、「満州族」が、日本と結託して新たな主権国家を作ろうとしたような記述(22頁)は、実態とだいぶ異なっていると思いました

 

そして、エマニュエル・トッドの成果を用いつつ、家族構造や組織論から中国を見る文明論的な視座はかなり違和感をもった。この点に関しては、中国史は分厚い研究の蓄積があると思うが、あまり参照されているような感じがしない。そして、良くも悪くも、自分とは「共同体」の言葉の使い方の違いがあるなぁと思ったし、著者の依拠する中国人の家族構造・組織構造も、それこそ中華民国期・中華人民共和国期に大きく変容を見せているのではないか。それこそ、中華民国期の近代化、社会主義改造、一人っ子政策などを考えてみれば良いのではないかとも思った。

 

とは言え、著者のような実績のある研究者が、堅実な学術論文のみに安寧するのでなく、時にはこうした思い切った中国論を書くことも非常に意義のあることと思っている。いろいろな意味でも、現在、読まれるべき現代中国論になっている。

中国の行動原理-国内潮流が決める国際関係 (中公新書)

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