多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、東浩紀『ゲンロン戦記』

専攻も仕事も全く異なるが、やはり世代が近いせいか、東浩紀さんのお仕事は良くも悪くも気になっている人間の一人である。

 

『郵便的不安たち』も、『存在論的、郵便的』も読んでいる。

その意見に同意できないことも多々あるが、何だかんだで気になって、結構その著作を読んでいる。自分にとって不思議な位置付けの人物でもある。

 

今回の著作は、本人が述べるように大変に凡庸なものであるが、むしろその凡庸さゆえに今回、僕は共感することが多かった。以下に引用する。

本書は批評の本でも哲学の本でもない。本書で語られるのは、資金が尽きたとか社員が逃げたとかいった、とても世俗的なゴタゴタである。そこから得られる教訓もとても凡庸なものである。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (Kindle の位置No.13-15). Kindle 版.

 

思いもかけず、紙の資料保存の重要性を説くあたりが大変に面白い。

ファイルはたしかにデジタルでクラウドにおいてもいい。けれども、それだけでは社員は仕事の存在を忘れてしまうのです。契約書や経理書類を紙に印刷し、目に見えるものとして棚に並べるのは、仕事があることを思い出させ続けるためだと思います。そういう作業をするなかで、ついに意識改革が訪れました。「人間はやはり地道に生きねばならん」と。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (Kindle の位置No.681-684). Kindle 版.

 

紙の書類を印刷しフォルダにして書棚に入れると、情報がオフィスのなかで特定の場所を占めるので、全体が身体的に把握しやすい。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (Kindle の位置No.696-697). Kindle 版.

 

人文的・哲学的には全く重要ではないかもしれないが、東浩紀さんのこれまでの仕事の分岐点になるような著作になるかもしれないと思った。