多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、西村晋『中国共産党 世界最強の組織』星海社、2022年

大変に興味深く勉強になった本であった。現代中国の基層社会における党政府組織がどのような働きをしているのかを知るのにとても重要な情報を提供している。しかも、記述は分かりやすく大変に論旨が分かりやすい。良書であると思う。

 

まず、本書では、日本ではなじみのない、中国独特の「群衆」と「基層」という用語を次のように定義している。

 

中国で群衆とは社会を構成する大部分の人々を意味します。群衆が生活する場であるとともに、党が群衆と交流する重要な場となるのが、中国社会の基礎である「基層」です

 

と、簡にして要を得た文で綴る。そして、本書のキータームとなる「基層」という単語を次のように記す

 

政治・社会用語としての基層は、ロワー・下級・基盤・土台・足下、といった意味合いを持ちます。「(階層組織における)上意下達の際の最も下の層」「(組織の意思決定における)ボトム・アップの際のボトム層」「最も中央から遠い末端の層」「ピラミッド型組織の底辺部分」と考えて頂いて構いません。

 ただし、「基層」という言葉にロワーの意味が含まれるといっても、二流・劣位・無力といったネガティブな意義は含まれません。日本で言う「下流」「底辺」等のイメージと異なることに注意してください。敢えてイメージ的に近い言葉を探すなら「現場」「草の根」辺りであろうかと思います。

と、極めて慎重に重要な定義を行う。著者は、中国共産党は基層に組織をつくることで、社会の様々な分野に存在している党員を組織化し、かつ、彼らに群衆と接する役割を担わせているという、とても重要な指摘を行う。

 そうなんだよなー。これが中国共産党とその前の政権、国民政府や「満洲国」等々との、最も大きな違いなんじゃないかと思っている僕にとっては、やはりそうかと思う現代の党組織や基層組織のあり方がリアリティ持って綴られているのが本書の最大の貢献であると思う。

 

そして、中国共産党という組織を単に少数のトップが何もかも鶴の一声で決めているというような見方を錯覚と喝破し、末端や現場の状況や意見を上に吸い上げて、有益な情報やアイデアを得ることに概ね成功していると結論づける。これは現代中国を見る際にとても重要な指摘だと思う。

 

しかし、中国の現代史をたどるならば、単純に言っても、大躍進や文革もあり、こうした機能がいつでもうまくいっていたわけではないことも事実である。そうするとこうした機能が果たしていったいいつ頃から、機能するようになったのかというのはまだまだ課題であると思う。

 

で、宣伝をすると、自分が最初に書いた論文はまさに中国共産党が都市の基層社会にどのような組織化を行ったのかという論文である。

 

内戦期、中国共産党による都市基層社会の統合 : 哈爾浜を中心として

 

これの続編というか、もっと長いスパンでも考えねば、と改めて思い至ったという意味でも、自分にとって本書はとても重要な本である。