多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、柿沼陽平『古代中国の24時間』中公新書、2021年

結構長い間、Kindleの中に積み重ねられていたが、最近、読み始めるととても面白くて割と一気に通読した本である。本書は、主に秦漢時代の上は皇帝から庶民まで、どのような24時間を、そして、どのような生活を過ごしたのかを事細かに描いた良書である。

自分は、中国近現代史を不十分ながらも研究しているものとして、この本のように、例えば紅軍兵士が何を食べていたとか、会議をどのようにやっていたのかとか、何時頃に寝て、どのように暮らしていたかを、この密度で行うことはできるだろうかと問うて、これは大変なお仕事だと思った。

この本については、一応、著者と思われる人がタイムスリップして、その生活を経験するという設定になっている。そのためもあって、著者は意識的に学術的でなく、とっつきやすく親しみやすい語り口を採用し、とても読みやすい。おそらく本書には要約の必要もなく、とにかく細部の描写が面白く、当時の人々はこんなにも現在とは違う「豊かな」生活をしていたのかと驚くことしきりであった。

 

 

本書で特に重要と思ったのが、「エピローグ」の部分である。著者は、秦漢時代の日常生活はきわめて「独特」である一方、東アジアや現代にも見られる風景も多々あるとする。さらに、その風景は、古今東西さまざまな場面で見出される要素が含まれているのであるともする。つまり、遠くからみれば、それぞれ異なっているように見えるものも、事細かに観察し、小さな部分により分けるならば、共通する要素は多くなり、その組み合わせが相違を生み出しているという非常に重要な指摘を行っている。これは、例えば、我々がしばしば見る時代や地域が「異なる」文化とは何かということを考える上でとても参考になるだろう。門外漢ではあるけれども、大変に勉強になった良書である。お薦め。