多余的話

大沢武彦のブログです。

水谷尚子『「反日」解剖−歪んだ中国の「愛国」』

このタイトルで、さらに帯に「古森義久氏激賞!」とあれば、最近流行の単純な「反中」本と思ってしまう人もひょっとしたら多いのかもしれない。でも、この本は、そのような「反中」本とは全く異なっており、近年の中国における「反日」活動を理解するために不可欠なものとなっている。

著者の水谷尚子氏は、もともと日中戦争下の日本人の反戦活動や戦争責任の問題について取り組んでおり、その過程で多くの聞き取り調査を行ってきた。本書の多くは、もともと『諸君!』や『サピオ』など以前の経歴と一見反するような雑誌で書かれたものであるが、その問題関心や方法論は一貫していると思う。

この本の大きな特徴は、報道された「事実」を単に収集して分析するのではなく、西安の寸劇事件関係者や中国の反日活動家など、その当事者にまず直接会って話を聞くという、ある意味至極まっとうなスタイルをとっていることにある。そこで明らかになった事実は、決して公式的な分かりやすいものとは言えない。けれども、それは日中の関係を考えるならば、向き合わねばならないものだと思う。

また、個人的には「抗日戦争映画から最新反日ドラマまで ”極悪なる日本兵の描かれ方”」は、特に興味深いものがあった。『諸君!』に掲載された時にも読んでいたのだが、中華人民共和国建国後から多くの日本兵を演じた葛存壮や管宗祥などのインタビューは、非常に貴重なものだと思う。加えて、新中国成立直後のドラマに出てくる日本兵よりも近年のものの方がむしろ記号的かつ平板になっているという指摘は重い。

「反中」の方にも、「親中」の方にもお勧めの良書と言えます。