多余的話

大沢武彦のブログです。

アジア冷戦史

実は結構前の話だが、下斗米伸夫『アジア冷戦史』(中公新書)を読み終える。アジア冷戦史 (中公新書)

下斗米伸夫氏は、ロシア・ソ連史の専門家である。正直なところ、その彼が「アジアの冷戦」をテーマに新書を書くというので、期待しながらも少し不安があった。

全体的に見れば、ロシア圏の新史料を駆使して、冷戦の新しい側面に光を当てた、佳作であると評価できる。

個人的には、ソ連核兵器をめぐるエピソードが特に興味深かった。例えば、1945年の段階では、ソ連国内にほとんどウランが発見されず、それは主にドイツやブルガリアから運ばれていたものであった。東欧からのウランを利用することで1949年8月にソ連は核実験に成功する。

そして、東アジアでも、50年代にソ連は2600万トンものウランを含む砂岩を北朝鮮から搬入しており、また中国東北地方においても核関連物資の所在が知られていたという(具体的には不明)。今後、核関連物資との関わりからソ連のアジア占領をとらえ直すことができるかもしれないと感じた。

いろいろ学ぶ点が多かったとはいえ、中国に関連した部分については、異論もある。例えば、1945年〜中華人民共和国建国初期の中国東北地方を高崗のもとでの“独立王国”とするのは、正しい評価ではないと思う。高崗が東北局のトップに立つのは1949年である。

以前の日記でも書いたように、中国でも外交部が建国初期の史料を公開しつつある(http://www.fmprc.gov.cn/chn/wjb/zzjg/dag/default.htm)。中国史研究者がこれを分析して、下斗米氏や他の新しい冷戦史の研究と付き合わせる作業はこれから重要になってくるだろう。