多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、斉藤光政『戦後最大の偽書事件 「東日流外三郡誌」』

最初のページを読み始めて、ぐいぐいと引き寄せられてあっという間に読んでしまった。その感想は、楽しかった、興味深い、と言うのもないわけではないが、多くは背筋の凍るような大変に身につまされる話であった。

 

東日流外三郡誌」は、「つがるそとさんぐんし」と読む。1975年、「東日流外三郡誌」は青森県市浦村の公史である『みちのくあけぼの−市浦村史資料編 東日流外三郡誌』として世に出た。正史には登場しない津軽の闇の古代・中世史を、敗者の視点から記した「門外不出」「口外無用」の“古文書”とのふれこみであった。

 

しかし、専門家からは割とすぐに「現代人による偽書」ということが指摘されつつも、地域の村おこしや一部の人々には熱狂的に受け入れられて大変な騒動になっていく。

 

ちょっと歴史の知識のある人がみればおかしいという内容でありながらも、あまりにもお粗末すぎるため、誰も取り合わなかった。そうした面倒くさいことにかかわらないほうがいいという曖昧な態度が問題を複雑にし、大きくなっていく。どこかで他でも見たことあるような風景である。

 

その大きな要因としては、地元の人の心を上手くくすぐる部分がその内容にあったこととと、いわゆる「門外不出」「口外無用」と喧伝される謎の古文書のもつあやしい魅力である。偽書と疑いつつも、貴重な資料をこの目で見てみたいという「欲」、これに自分であれば抗えるだろうかと思った。

 

あとは、何といってもオフィシャルな村史に位置づけられたり、展示に使われたというところが、背筋を寒くさせる。皆、おかしいと思いつつも、面白いじゃん、という態度が問題を拡散させる。これも人ごとではない感じがする。

 

大変に身につまされた本である。歴史に携わる人、全員にお勧めです。 

 

戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」 (集英社文庫)

戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」 (集英社文庫)