多余的話

大沢武彦のブログです。

「戦後『満洲』史研究会」の設立

大沢武彦「「戦後『満州』史研究会」の設立」『近現代東北アジア地域史研究会 NEWS LETTER』第18号、2006年12月、126〜128頁をこちらにも転載します。著者校正直前のファイルを転載したものなので、あくまでも「正本」は掲載された原稿にあるということでお願いします。あと、「戦後「満洲」史研究会」カテゴリーも作りました。

(以下、本文)

 2006年4月1日、後述する趣旨の下、「戦後『満洲』史研究会」が設立されると同時に、第1回の研究会が開催された。
 本誌購読者には、我々の「戦後『満洲』史研究会」と重なる問題意識をお持ちの方も多いことと拝察しており、この場をお借りして同研究会の紹介をさせていただくこととしたい。一人でも多くの方が、本会への関心を持っていいただければ幸甚である。


1.「戦後『満洲』史研究会」の設立趣旨
 戦後「満洲」史研究会は、戦後の中国東北地域或いは「満洲国」に関心を持つ方を中心に、情報を交換し、研究をさらに深化させる場として設立された。呼びかけ人は、丸山鋼二と私、大沢武彦である。第一回の研究会は、2006年4月1日に行われた。本研究会の目的は、第1回研究会で配布された会の設立趣意文に尽くされており、以下にその全文を転載する。

【「戦後『満洲』史研究会」の設立趣旨文】
これまでに近代における中国東北地域、あるいは旧「満洲」といわれる地域に関しては、多くの研究が積み重ねられてきました。一方、それと比較して、「満洲国」崩壊後の状況については、少数の研究を除けば十分な関心が払われてこなかった状況がありました。
 しかしながら、近年、新たな問題関心と手法によって、この時期の中国東北地域或いは「満洲」を再構成せんとする研究および研究者が多く出現してきたと思われます。例えば、昨年に発表された江夏由樹・中見立夫・西村成雄・山本有造編『近代中国東北地域史研究の新視角』山川出版社、2005年の論文集はそうした潮流の代表的な事例だと思います。
 そうした近年の研究状況を踏まえて、戦後の中国東北地域或いは「満洲」に関心を持つ方を中心に、情報を交換し、研究をさらに深化させる場として、戦後「満洲」史研究会を立ち上げることとなりました。
 いうまでもなく戦後「満洲」は「満洲国」時代の遺産をそのプラスマイナスを含めて、その断絶と継続のうえにありましたし、中華人民共和国建国後(とくに50年代の計画経済建設期・中ソ友好期)の中国東北地域は「満洲国」時代と戦後「満洲」期の歴史的営みの継続と断絶のうえに成り立っていました。また、戦後「満洲」は戦中・戦後期の国際関係にも大きく規定された側面も強く、米中関係や中ソ関係、日中関係の研究を進化させる必要があります。さらに中国東北地域はその政治的経済的側面のみでなく、朝鮮族北朝鮮モンゴル族モンゴル人民共和国も重大な影響をおよぼす大きな主体として関わる側面も強くありました。そこで、本研究会には戦後「満洲」に関心を持つもののみでなく、「満洲国」期や中華人民共和国建国初期を研究対象としている研究者にも是非参加していただきたいと思います。また、米中関係・中ソ関係・日中関係の研究者および朝鮮史やモンゴル史研究者にも参加を広く呼びかけたいと思っています。

2.研究会活動について
 現在、研究会では、51名の会員の下、これまでに5回にわたって研究会を行ってきた。各研究会での報告内容は次の通りである。

◎第1回研究会
・日時:2006年4月1日
・合評会:江夏由樹・中見立夫・西村成雄・山本有造編『近代中国東北地域史研究の新視角』山川出版社、2005年
・報告者:大沢武彦(アジア歴史資料センター調査員・日本大学生産工学部非常勤講師)
海燕一橋大学社会学研究科博士課程)
 吉田豊子(中央大学経済学部非常勤講師)
◎第2回研究会
・日時:2006年5月20日(土) 14:00〜18:30
・個別研究報告:峰毅(東京大学)「『満洲』化学工業の開発と新中国への継承」
山本裕(慶應義塾大学)「「満州国」後半期における石炭業:「増産」の実態について」
◎第3回研究会
・日時:2006年6月3日(土) 15:00〜17:30
・個別研究報告:松村史紀(早稲田大学大学院)「冷戦史研究の動向:中国内戦と米ソ冷戦」
◎第4回研究会
・日時:2006年7月1日(土) 14:00〜18:30
・個別研究報告:大出尚子(筑波大学人文社会科学研究科)「満洲移民政策の転換と満鉄開拓科学研究所の設立」
高媛(日本学術振興会・外国人特別研究員)「『国恥』と観光:旅順の歴史景観と戦争記憶の重層化」
◎第5回研究会
・日時:2006年10月28日(土) 14:00〜18:30
・個別研究報告:飯塚靖(明海大学国語学部非常勤講師)「中国東北における化学工業と軍需生産:満洲化学工業株式会社・建新公司を中心に」
鄭成(早稲田大学アジア太平洋研究センター特別研究員、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程)「国共内戦中の中国知識人の対ソ認識:郭沫若らの訪ソ見聞を中心に」

 以上の報告内容が示す通り、本研究会では、設立趣意書でも示した戦後「満洲史」をめぐる様々な問題領域を、多角的かつ柔軟に分析・討議する活動を継続してきた。
 今後も本研究会では、中国近現代史だけなく日本近現代史、植民地史、モンゴル史、国際関係史、ロシア史などの戦後「満洲」に関心を持つ方に広く呼びかけ、研究報告や書評会、あるいは、メーリングリストの構築による情報交換や東京以外での研究会も企画している。
研究会への参加希望、問い合わせやご意見などがあれば、連絡窓口を担当している大沢武彦(E-mail:takeosa75 @ gmail.com)までご連絡頂きたい。

(おおさわ たけひこ:アジア歴史資料センター調査員・日本大学生産工学部非常勤講師)