多余的話

大沢武彦のブログです。

デイヴィッド・コーエン、戸谷由麻著『東京裁判「神話」の解体ーパル、レーリンク、ウェブ判事の相克』ちくま新書、読了

極東国際軍事裁判所(以下「東京裁判」)は、判決を公表してから70年以上もの歳月が流れたが、いまだに主張や論争の的となり続けている。それは、東京裁判が単に歴史の一コマであるだけでなく、現代の日本人の歴史認識にさえも、良くも悪くも影響を与え続けた「事件」であったからであろう。

本書は、これまでの東京裁判に関する先行研究を押さえた上で、著者の二人が発掘したウェブ判事による判決書草稿を中心とした新しい東京裁判論を展開することを趣旨としている。

そのために、まず東京裁判の起訴状から多数意見までの概観を行った上で、従来の東京裁判論に大きな影響を与えたパル意見とレーリンク意見も併せて論じた上で、最後にウェブ判事による判決書草稿を中心とした新たな東京裁判論を行う。

本書の大きな特徴としては、パルやレーリンク、ウェブの意見を、外在的にその是非を論じるのではなくて、できる限り内在的に、裁判で提出された資料をどのようなロジックで個々が検討し、最終認定を行ったのかを分析した点にあるであろう。

こうした手法は、従来の研究ではあまり見られなかった手法であり、新たな東京裁判論となっていると言える。その意味で、東京裁判をどのように捉えるにせよ、一読する価値のある本と言えよう。本書のもととなる、共同研究についても、邦訳が待たれる。

 

東京裁判「神話」の解体 (ちくま新書)

東京裁判「神話」の解体 (ちくま新書)