多余的話

大沢武彦のブログです。

上田誠二『「混血児」の戦後史』青弓社、読了

歴史学は、世の中、或いは、もっと大げさに言えば、日本人ひいては人類に対して、何かメッセージを発することができるのではないか、そんなことを励まされた様な気がした。

 本書では、聖ステパノ学園における混血児教育を縦糸に、各時代の混血児の社会的な立場や語られ方を横糸にして、彼/彼女たちをめぐる排除と包摂の戦後史を生き生きと描いている。 

本書の最大の目的は、教育学と歴史学を架橋し、過去の教育実践を掘り起こすことによって、現代日本が陥っている問題群に対し、ささやかな「処方箋」を出すことにある。

この著者の問題意識によって、本書は単なる「混血児」の戦後史という、いわゆる日本の「周辺」の問題を描いただけのものにはなっていないと言えよう。勿論、著者が意図する「周辺」から「中心」を批判するという図式自体に問題があるという批判も可能かとは思う。しかし、僕は、著者のこの歴史学的な「実践」こそ大切にすべきものがあるのではないかと考えている。

僕のこの記事はひどく抽象的であるが、本書の記述は極めて具体的かつ明快で読みやすい。そして、新たに発掘した資料によって興味深い事実も多く発掘している。日本社会や教育だけでなく、広く歴史に関心を持つ人々にも読まれるべき本になっている。お勧め。

 

 

「混血児」の戦後史 (青弓社ライブラリー)

「混血児」の戦後史 (青弓社ライブラリー)