多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、李鋭『中国民主改革派の主張-中国共産党私史』岩波現代文庫、2013年

副題の方が本書の内容をよく表している論集と思いました。

著者の李鋭氏は中国共産党の老幹部で最も先鋭的な思想を持つ民主改革派の重鎮である。

1958年に毛沢東の秘書となったが、1959年の廬山会議、66年からの文化大革命で批判、投獄された経験を持つ。

 

現実的に、中国の民主や改革を論じる上で、中国共産党内の「民主改革派」というものが、どのような主張を行い、どれくらいのものかを把握することが重要になってくることは間違いない。本書は、そうした「民主改革派」の中で最も著名で、古参の幹部による発言集ということで、大変に興味深い。そして、こうして、ある種、中国共産党史の時系列に沿った形で非常に丹念な注までつけて、翻訳されている日本はやっぱり凄いのだよなぁと思ってしまう。

 

中国民主改革派の主張 中国共産党私史 (岩波現代文庫)
 

 

特にこの本を読んでいると、文化大革命後の改革開放が始まり、天安門事件までの間は、中国に様々な政策が模索され、多くの可能性のあった時代であったのかと思った。

 

李鋭さんは何度も、過去をきちんと総括することが、民主改革のために必要であると言っている。個人的に印象に残ったのは、「昨日を正確に認識できなければ、今日と明日も良く掌握できないことを知らなければならない」(233頁)という言葉だ。

 

そして、文脈は異なるが歴史檔案に対して以下のように述べていることも大変に興味深い。

「歴史檔案を公開すべし」

「中国の檔案、毛沢東の檔案は多数ある。私は檔案館に行ったことがあるから知っている。だから中国の我々共産党の数十年の事実と毛沢東の問題をはっきりさせるためには、檔案を全て公開しなければ、真実を完全に明らかにすることは不可能である」(108頁)

 

あと、この本をもっと、総合的に深く知るためには、やはり及川淳子さんの以下の本を読まねばとも思いました。買いました。

  

 

さらに、現在、李鋭さんの個人文書は、スタンフォード大学のフーバー研究所にあるという。本書でも引用されていた日記や文書の原文はやはりここなのであろうか。こちらも一度は行ってみたいものである。

 

www.hoover.org

そして、本書の成立が大変に興味深いのは、本書の編訳を行った小島晋二さんが、どのようにして中国研究を志し、この本の翻訳作業にたどり着いたのかを記した「あとがき」にある。

「要するに、中国革命や毛沢東に当時かなりいれこんだのである」と書いた小島さんが、どのようにして中国を認識すべきかという問題を考え抜いた上で、その総決算として本書が出版されていることも興味深い。おそらく、個人的に今後も何度も参照すべき本になるかと思った。