多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、富田武『日ソ戦争 1945年8月』みすず書房、2020年

これは凄い力作である。そして、この本の執筆が可能になったのは、ロシアと日本のデジタルアーカイブが進展したことによるものであることが、非常に感慨深かった。

  

日ソ戦争 1945年8月――棄てられた兵士と居留民

日ソ戦争 1945年8月――棄てられた兵士と居留民

  • 作者:富田 武
  • 発売日: 2020/07/18
  • メディア: 単行本
 

 

簡単に内容を紹介すると、 本書は3つに分かれている。「第一章 戦争前史」では、日ソ戦争に至るまでのソ連と日本の外交・作戦準備が綴られている。

 

この本の最も大きな特徴であり、類書にはない多くの事例を明らかにしているのは、「第二章 日ソ8月戦争」であろう。1945年8月9日から9月2日までの日ソ戦争を、ソ連側の資料・日本側の資料・回想録等を突き合わせて叙述しているところが、最大の特徴である。ソ連側資料で使用されているものの多くが、ロシア連邦国防省中央公文書館(Tsentral'nyi arkhiv Ministerstva Oborony Rossiiskoi Federatsii:TsAMO)のものである。日本側の資料は国立公文書館アジア歴史資料センター(主に防衛省防衛研究所所蔵「終戦時の日ソ戦」)である。いずれもデジタル・アーカイブであり、自宅にいながらでもアクセスできる資料と言うことに驚いた。そして、これらのデジタルアーカイブが明らかにする戦場の多くの事実が、いずれも大変に興味深く、この事実の発掘が本書の学界への最大の貢献であると言えよう。「第三章 戦後への重い遺産」は、日ソ戦争が主に日ソにもたらした影響を記している。

 

本書は日ソ戦争及び戦後の「満洲」研究にあたっての必読書になると思われる。とは言いつつも、日ソ戦争及びソ連の「満洲」占領が中国に何をもたらしたのか、そして最終的には中国革命との関わりはどのようなものであったのか、それも本書を読みつつ大変に気になった。これは自分も含めた今後の学界の課題であると勝手に感じた。まだまだ明らかにすべきことは沢山あるとの思いを強くした。