多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、ブレディみかこ『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』

 

年末に読んで面白かった。非常に読みやすくて、シンプルだが、決して浅くはない。前に読んだ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(新潮文庫)』もそうだったが、他者を「理解し共感」するとはどういうことか、という困難で現代的な問題を非常に分かりやすく説いている本である。

 

まず、本書のキーワードとなる用語が「エンパシー」という用語である。そして、本書では、「エンパシーとシンパシーの違い」という大事な指摘をする。

 

そこで、エンパシーとは、他者の感情や経験などを理解する能力とされ、シンパシーとは誰かをかわいそうだと思う感情、誰かの問題を理解して気にかけることを示すこととされる。つまりシンパシーはかわいそうだと思う相手や共鳴する相手に対する心の動きや理解やそれに基づく行動であり、エンパシーは別にかわいそうだとも思わない相手や必ずしも同じ意見や考えを持っていない相手に対して、その人の立場だったら自分はどうだろうと想像してみる知的作業とする。ここから始まり、他者を「理解」するとか「共感」するとはどういうことなのかを事細かに論じて面白い。

 

ただ、本書がここで類書と異なり大変に面白かったのが、エンパシーが「闇落ち」することの危険性も指摘したうえで、それを克服するのがアナキズムであるという点である。本書の具体例としてあげられるのは、金子文子とクロパトキンである。これは率直に言って意表をつかれた。そして、エンパシーとアナキズムが結びつくのではなく、むしろ積極的に結びつかせなければならないという主張は、大変に興味深い。

 

やや、本書の趣旨とは異なるかもしれないが、自分がやってきた歴史学という学問は、まさにこのエンパシーを実践するものだとも思った。資料というレンズを通してであるが、果たして僕は何十年も前の中国の指導者や人々の靴を履けているのだろうか、そんなことも考えさせられた。