多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、石川禎浩『中国共産党、その百年』筑摩選書、2021年

中国共産党、創設、百年である。そして、おそらくその百周年をねらって、中国大陸はもとより、世界中で中国、そして中国共産党の歴史を描く本がでるのであろうなと思っていた。

 

で、おそらく、日本においても、いや世界においても、中国共産党の歴史、百年を描ける力量がある人は、そう多くはいない。その理由は、単に百年という長期間というだけでなく、中国共産党に関する一次史料はもとより、果ては研究書を含めば中国だけでなく日本、そして世界中に重要なものがあり、それを消化しきって、一定の観点をもって描くなどと言うのは、極めて難しい事である。そして、その難しい事ができる数少ない人として、石川禎浩さんの名前を挙げる人は、多いだろう。自分もその一人である。

 

 

石川禎浩さんといえば、中国共産党成立史である。これは考証のレベルがまさに世界的であり、読みながら、こんな細かい事までに資料で再現するのかと驚くことしきりであった。そして、実証のレベルが単純に高いというだけでなく、石川禎浩さんの凄いところは、叙述の仕方にもセンスがあり、本書では芥川龍之介が上海を訪れたエピソードをイントロにするところなど、読者を引きつける叙述のセンスがあると感心しておりました。 

 

また、毛沢東エドガースノーについては次の著作がある。宣伝しておくと、これは拙書評もあります。 

 

 ○拙書評

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で、今回の著作であるが、そのセンスは遺憾なく発揮されており、冒頭の劉少奇のベッドの話や、歌で振り返る中国共産党百年史などは、大変に面白く興味深いものとなっており、僕のような凡庸な者にはなかなか書けないものとなっている。

ただ、本書は百年を描くものであるが、その歴史を「通時的に、まんべんなく描く教科書」とはしないとあり、共産党の特有の性質をそれぞれの時代のトピックに合わせて取り上げるものとなっている。そのためもあり、著者が一番得意とするであろう、中国共産党設立の時期が著述が分厚く、興味深い記述もまた多い。中華人民共和国が成立して以降の記述は、ややあっさりしているような印象をもったのも事実である。

あと、これは議論を呼ぶ点だと思うが、共産党の歴史なのに、共産主義とは何か、社会主義とは何かという議論が無いという点である。著者は「なまじマルクス主義を知っていることは、今日の共産党を理解する上で、邪魔とまでは言わないが見る者の目を曇らせかねない」とまで書いている(29頁)。やや揚げ足をとるような言い方かもしれないが、今日の共産党を理解するのには役立たなくても、やはりかつての共産党の思想や行動様式を理解するには、やはりイロハぐらいは説明する必要があるのではないかと、思ったりもしたのである

とは言え、おそらくこれから数多くの中国共産党百年の本が出ると思うが、その中の必読の書である事は間違いない。