多余的話

大沢武彦のブログです。

松沢裕作『生きづらい明治社会』岩波ジュニア新書、読了

現代的な問題意識がかなり強い。何のために明治の時代の歴史を描くのか、ということを強く意識した作品が本作になるということだろうか。

 

岩波ジュニア新書ということもあってか、論旨が大変に明快で分かりやすい。しかも、割と中高生が手に取っても、面白く読むことができる書となったのではないだろうか。安易な明治礼賛の解毒剤として、まずはお薦めすることができる。この著作の優れた点であると思う。

 

本書の大きな特徴としては、現代日本社会と明治社会との共通性を強く主張しているところである。それは、この時代を我々と遠いものとして理解するのではなく、身近などこにでもある社会としてまずは理解してみようとする試みの一つなのではないかと感じた。この点も大変に共感するアプローチではある。

 

そして、本書のもう一つの大きな特徴としては、「がんばれば成功する」という通俗道徳の「わな」を強調しているところだ。これは、一面で大変に興味深い反面、日本人は行き詰まって、抜け道のようなものがないのではないかという印象を僕に与えた(本書の最後では通俗道徳を日本人の「国民性」のようなものとして捉えるのは間違っているとは書かれているのであるが)。

 

かつて歴史を学ぶ意味は、過去を学べば、未来に行く「道」を見つけることができるからと考えられていた部分があったかと思う。しかし、本書はそのような立場を取らない。私などよりはるかに才能があり、鋭敏な著者は、冒頭でこのように述べる。

「今の日本には、或いは世界の仕組みには、変化が必要です。私もそう思います。確かに何かを変えねばいけません。しかし、私は歴史学者です。将来のことについて、何かをどのように変えればいいという設計図を描くことは、少なくとも私の職業ではありません」(「はじめに」)。

これは、この現代の歴史家としては誠実なのかもしれない。でも果たして歴史家はそれで良いのであろうか、そんなことを考えさせられた。