多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、飯島渉『感染症の中国史』中公新書、2009年

それにしても2009年という11年も前に出版されたのに、新型コロナウイルスのおかげで、まるで現在の問題を記したものとなっているのが、本書である。

 

本書は、公衆衛生という観点から、おおよそ19世紀後半から現代までの東アジアと感染症の問題を描いている。本書を読むと、感染症の広がりとその予防・治療という行為自体が、「近代」という問題と密接に関わっていることがよく分かる。

 

例えば、ペストという一連の問題が、清朝の統治方法をより近代的なものに変えていることをありありと描いている。すなわち、かつては政府が直接に対応にあたるのでなく、民間の慈善団体が行っていたものから、ペストのグローバル化とともに、警察や病院の整備、衛生事業の整備が行われていくことが具体的に語られていく。そして、感染症が、政府による個人の把握や統制のあり方に大きく関連しているという、とても重要な指摘を行っている。

 

また、東アジアの近代と感染症という問題でも、日本が中国に与えた影響を描いていることも大変に面白い。それはペストを巡る国際会議、植民地の問題、そして毛沢東時代における日本住血吸虫における日本の役割という重要な問題を記している。

 

新型コロナウイルスがあっても、ワクチンができたり、治療法ができれば、我々はもとの社会に戻れるという言説がある。しかし、この本を読めば、この新型コロナウィルスはひょっとすると、我々の社会に後戻りのできない何か重要な変化をもたらしているのではないか、そんなことにも思いを至らせる希有な本にもなっていると言えよう。

 

感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)

感染症の中国史 - 公衆衛生と東アジア (中公新書)

  • 作者:飯島 渉
  • 発売日: 2009/12/21
  • メディア: 新書