大変に面白い本であった。お薦めです。
日本の近代を描く場合、いわゆる政治的エリートを中心にして、その近代化を描くような物語があると思う。本書で描かれる像は、そういう近代像とは真逆でありつつも、これもまた近代の一側面であることは間違いないと感じるものであった。
全く面識はないのであるが、同じような時代とテーマを取り扱っている松沢裕作さんと同じく、本書の著者である藤野裕子さんも研究史整理が大変にうまく、非常に見取り図を描くのが上手であるなと思いました。沢山の参考文献も整理・紹介されており、この分野の初学者にまずお薦めすることのできる本になっている。
個人的に非常に面白かったのは、日比谷焼き打ち事件の「男性性」へと注目する点である。この辺は門外漢ではあるが、あまり類書にはなく大変に興味深い論点だと思った。だとすると、僕からすれば、女性が中心であったようなイメージを持っている米騒動との比較などもできるのではないかとも考えた。
あとは関東大震災時の朝鮮人虐殺問題である。この問題は、我ながらややとっぴであるかもしれないが、日中戦争の問題とも繋がっているのかもしれないと感じた。そのあたりは、今後の研究の進展に期待したいところでもある。
最後にこれまた個人的な疑問であるが、なぜ日本においては、革命が起こらず、中国には革命が起こったのかという古いけれども、割と自分では継続して考えている問題もあるような気がする。そこには、暴力を独占する権力の問題と社会の武装という点をまさに考える必要があるのではないかなと思っている。たまたま、最近、出版された次の本も早く読んで、対比させると面白いのでは感じている。