多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、木村幹『韓国愛憎』中公新書

著名な韓国研究者による自叙伝の形を取りながら、近年の日韓関係を鮮やかに描き出した好著である。Kindle版で購入し、ちょっと読んだら、とても面白い語り口で一気に読み終えた。

 

自分は、一応、歴史畑で育ち、中国近現代史を勉強してきた。もちろん、木村幹さんとはスケールもレベルも大違いだが、院生・研究者あるあるネタが多い。

 

例えば、木村幹さんが神戸大学に異動して、留学へ行けと言われて最初は韓国に行こうと思っていたら、「韓国はダメだアメリカに行け」と、で、とある大学への留学への手配を行ったところ、五百旗頭真さんが「ダメだ、もっと有名なところ」、すなわちハーバードへ行けと言った点だ。後にこれが全く以て正しいことになるというエピソードだ。そこでは次のように述懐される。

「世界には、多くの研究分野の拠点となる大学があり、そこでは黙っていても多くのシンポジウムや研究会が行われさまざまな人々が行き来する。そういう拠点となる大学に居ることだけで、とてつもないアドバンテージになる」

自分は地方国立大学⇒大阪で修士⇒東京でドクターだったのだが、これはとてもよく分かる。当たり前かもしれないが、どんな研究も個人ではできないのだ。研究環境というのは個人の努力以上よりも重要かもしれないと日々感じている。五十旗頭真さんの教育的配慮を感じるエピソードであった。

さらに、政治的な研究にどんどん巻き込まれて、「正しい」研究に対峙する際の木村幹さんの述懐は首がもげるほどうなずいた。

「ただ、粛々と研究をすすめればいいのに、皆、どうして、「正しい」学問が何であるかにこだわるのだろう、と思わざるを得なかった」

あとは、戦後日韓関係史、とりわけ1990年代から現在までのあざやかな見取り図を描いていると思う。歴史認識や領土問題等でこじれた日韓関係の裏には何があるのかを知るためにも、非常に参考になる見方が紹介されていると思う。

例えば、韓国側としては同じ行動をしているのに受け取る日本側のメディア等の状態が変化した事によってその受け取り方も、引き起こす感情も異なるというのは重要な指摘だと思う。

 

東アジア国際関係や地域研究、歴史研究をしている人は皆、興味深く読める良書だと思う。お薦めです。