多余的話

大沢武彦のブログです。

読了、武井彩佳『歴史修正主義』中公新書、2021年

同書で、著者は良い意味で何度も何度も同じことを言っている。

しかし、これはこの問題に対処するには、取らざるを得ない態度ということになるだろうと思った。

 

 

 

ヒトラー賛美やホロコースト否定、その法規制といった主にヨーロッパにおける歴史修正主義の問題を取り扱ったものである。

 

まず、通常の学問としての歴史学歴史修正主義との違いを明らかにしているところが大変に勉強になった。例えば、ある種の言説に「歴史修正主義」だと批判したところ、歴史は常に「修正」されるから、それにあたらないという反批判に答えるものとなっている。

 

本書を読むと、歴史修正主義は、極めて現在的な政治的な意図があり、その大きな目的は、多くの人の史実に対して認識のゆらぎを呼び覚ます事にあるという(99頁)。著者のあとがきにもあるように、我々が持っている事実の認識の枠組みは、非常に危ういところは確かにあり、それを維持し続けるのは、多くの良識の絶え間ない取り組みと努力によるものだというメッセージは大変に重い。

 

また、個別の指摘についても、例えば第一次世界大戦後のドイツの外務省に「戦争責任課」が作られ、戦争原因の修正を行っていた事の指摘(26頁)などは興味深い。さらに、第6章の歴史修正主義に対するヨーロッパでの法規制の個所は大変に勉強になった。「誰の」「何を守り」その「社会的な利益」ということについての考察は非常に重要であろう。そして、ヨーロッパで進行している「歴史の司法化」は、おそらく東アジアでも避けられない問題であると思う。この点について考えるためにも、同書の議論は大変に参考になると思う。

 

歴史学とはいったい何のためにあるのか、歴史修正主義にどのように対峙すべきなのかについて考えるために、必読の本であろう。